本

『拝啓十五の君へ』

ホンとの本

『拝啓十五の君へ』
NHK全国学校音楽コンクール制作班・編
ポプラ社
\1050
2009.3

 平成20年度NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲として現れたのが「手紙」という歌だった。それは、NHK「みんなのうた」でも全国に流れた。
 そして、その主人公である中学生はもちろんのこと、多くの人の心を掴んだ。
 作ったのは、アンジェラ・アキ。実力派のシンガーであるが、自身の体験をモチーフとしている。30歳の自分へ宛てた手紙があったのだ。他愛もないことで、悩んでいる。でも、当時はそれが世界のすべてだった。ならば、今の中学生たちも、同じように、その悩みが世界のすべてであるはずだ。
 シンプル過ぎる、そのタイトル。だが、強烈に、中学生たちに響いた。これは、自分のことを歌っている、と。
 アンジェラ・アキ自身、各地の中学生たちのところへ足を運んだ。中学生たちと、直に触れあった。抱き合った。悩む中学生たちに、ぴったりと寄り添った。合唱部でこの課題曲に挑む中学生たちが心に抱く不安や辛さに、ただ寄り添った。
 NHKで「拝啓 十五の君へ」という番組ができた。この訪問を取材として作られたドキュメント番組である。
 兵庫県・西宮市甲陵中学校、長崎県・新上五島町立若松中学校、愛知県・豊田市立美里中学校、宮城県・仙台市立八木山中学校、これらが、この本で紹介されている。夢を追いかけたい気持ちと不安とが同居する中、潰されそうな気持ちになる中学生。自分って何だろうと思うと、苦しんでいる自分の存在意味も分からなくなるという中学生。部長の立場で居場所がないような気がしていると悩む中学生。サッカーチームのキャプテンとして厳しい指導をコーチから受けて悩む中学生に対して、信じられているからこその厳しさもあるのだと、アキさんは体験を通じた返答をする。
 人が死ぬのはなぜか。優しい人になりたいのに、辛い。まるで、信仰者の悩みのようだ。
 最後に、番組に寄せられた、未来の自分への手紙のうち、了解を得られたものを多数掲載している。
 こうして、多くの人が真面目に傷つき、悩んでいる。この人たちには、下手なアドバイスはいらない。ただ、中学生たちは、歌うことで、何かを見つめていく。見つけていく。コンクールで金賞を取れなかった涙も描かれる。だが、そこからも、きっと大切なものが見えるようになる。だって、この歌を歌ったのだから。この歌に、出会ったのだから。
 番組も見ていたし、だいたいの筋は知っていたはずなのに、私は電車の中でこの本を読みながら、涙が流れて仕方がなかった。




Takapan
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