本

『12歳の大人計画』

ホンとの本

『12歳の大人計画』
松尾スズキ
文藝春秋
\1200
2006.12

 NHK『課外授業 ようこそ先輩』という番組は、その小学校の卒業生たる有名人が、先輩として授業を行う様子をレポートしたものである。
 それが行き当たりばったりのものではないことは分かっていたつもりだったが、どれほどの話し合いの末に、企画が成立し、準備を調えていったのかということも、この本はよく伝えている。
 だが、どうして文藝春秋なのだ。NHKがするというよりも、この松尾スズキ氏とその周囲とが、本という形でこの番組制作を残し、広く提示する価値があるとみたからであろう。
 軽く読み流すこともできるし、難解な言葉が使われているわけでもない。エッセイのように、呟きのように、言葉がただ流れていくようにも見える。
 大人になりたかったかつての自分を、今の子どももそうなのかぶつけてみる。すると、意外にも、大人にはなりたくないという風が吹いてくる。仕掛けた側からすれば、意外な展開に、がっかりするどころか、なんとかこの子どもたちの大人観を明らかにしてやろうという思いがはたらいたのか、授業は盛り上がっていく。
 その場の子どもたちとのやりとりに基づく雰囲気というのがあるだろうし、それをいくら活字に起こしても、その楽しさが伝わってこないもどかしさはある。
 しかし、子どもから見た大人というものがどういう姿なのであるかが、しだいに鋭い観察眼と表現力によって、明らかにされていく。
 はたして、これで大人が解明されたのかというと、それは疑問である。しかし、参加した子どもたちは、大人についてまた考えていく歩みを始めたことだろうし、この経験を元にして、何かを考えていくことの楽しさを求めていくことだって考えられる。
 授業の最後に、松尾スズキ氏による、感動的な挨拶が待っている。自分の親とどう関わるかということを抜きにしては、大人であった親、そして大人になっていく自分というものが、一定の関係に落ち着くことがない。
 何かを考えさせる――あるいは、連想させていってくれる本となった。爽やかな風と、切ない香りとを残して。




Takapan
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