本

『11歳の衝動』

ホンとの本

『11歳の衝動』
朝日新聞西部本社編著
雲母書房
\1785
2005.2

 2004年6月1日、佐世保の小学校で、六年生の女児が同じクラスの女児を学校内で殺害するという、ショッキングな事件が起こった。
 大人たちは、焦った。長崎の教育関係者は、一年前の12歳の中学生による幼児殺害事件に続いての大事件で、無力を露呈することになった、と焦ったかもしれない。いのちの教育とは何だったのか、空しさを覚えたかもしれない。
 この本は、被害者の父親が勤めていた、毎日新聞によるものではなく、朝日新聞社の記事のまとめである。いや、記事の断片ではない。新たに統括してまとめあげたものである。
 手に取る価値があったと思う理由は、この本の後半に膨大な資料が掲載されていることである。父親の手記はもちろんのこと、教育委員会の報告や家庭裁判所の審判決定の内容など、公的な資料がまとめあげられている。
 そして、加害者の作文やイラスト、ホームページの内容がすべて公開されているのが、また目を惹く。これを、普通の女の子のものだとみるか、この子が特別だったようだとみるか、それは読者の判断であろうし、私たち大人や親への、真摯な問いかけとなるであろう。
 少しばかり想像力がはたらくとき、私はもう直視できないほど、この本からたまらない現実感を突きつけられていた。もしそれが自分の子だったら……。誰もが一瞬感じるであろう問いかけが、徹底的に心の底に焼き付くのである。読むだけで、体のあちこちが、痛くなってくる。息苦しくなってくる。それでも、読まなければならないという義務感のようなものも生まれてくる。
 あまり、意見めいたものは、この本には書いていないと言ってよい。新聞社が世に問う方法として、ひたすら意見を言うというのも一つだが、とにかく事実を提示して、あとは読者の判断に委ねるというのも一つである。意見を先んじようとする限り、事実の過誤も伴いやすい。まずは事実、何があったのか、そこから始まろうという姿勢には、好感が持てる。
 最後にようやく、識者の意見が二つ載せられている。そこには、私も共感できるものがあった。だが、それを気にするしないもの、読者が決めればよいことだろう。
 私は、この事件について、尋常ならぬ関心を抱き続けている。事件発生の日以来この方、ネットに伝えられる、この事件関係のニュースやエピソードは、可能な限りすべて見つけ出しては拾い、テキスト保存している。
 この本には、ネットでも見つからない貴重な資料が多数載せられている。そのことだけでも、本を開く価値は大きい。
 そうは言っても、私は実に辛い気持ちで、この本を薦めなければならない。




Takapan
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