本

『「1日10分で体が若返る」ゆっくりトレーニング』

ホンとの本

『「1日10分で体が若返る」ゆっくりトレーニング』
石井直方
アスコム
\1365
2010.2.

 老化防止。切実な人にはなんとも厳しい言葉であり、関係ない若者には全くの他人事であろう。あまり好まれる言葉だとは言えない。しかし、該当者はその心の裡でかなり深刻に考えている。時に、それを笑い飛ばす芸に気を紛らすこともあるだろうが、それで解決できる問題ではない。やがて、我が身にその波が押し寄せ、押し切られ、諦めの境地になる。
 しかし、この本は違う。加齢を止めることはできないが、老化は遅延できるというのだ。それも、ここでは比較的簡単な体操によって、である。「スロトレ」と称して勧めるのは、素路へトレーニング。そういえば近年、プロスポーツの分野でも、徒に厳しく鍛えるのがよろしくないということが認識されつつある。見た目には何をしているのかと言われそうなほどに、ゆつくりとのんびりと動いているが、実はそれが筋肉を鍛え、身体能力を高めているのだという説明である。スポーツ運動学とでもいうのだろうか、合理的に、そして体を壊さないような鍛え方が研究され続けている。
 そこへきて、この「若返る」である。そんなことはあるものか、と反発したくもなるが、これが事実のようである。というのは、この本は実に分かりやすく、簡単に実行できそうであるのだが、論点も実にシンプルなのである。それは、筋肉を鍛えればよい、という一点張りで教えてくれるからだ。
 だからエキスパンダー? などという訳ではないのだから、新しい学説はよく聞いてみるに限る。体の痛みはしばしば筋肉の衰えに由来しているから、筋肉が衰えないようにすればよいというのだ。また、合理的に筋肉のことを考えると、筋肉を太くすることは、何歳からでも可能なのだという。そして、ここからが面白いのだが、睡眠や食事についても言及されるけれども、それは、すべてが筋肉のためにどうであるか、という極めて筋の通った説明が貫かれているのである。ダイエットのためにも、筋肉をつけるべきだ、などという。そしてそこを読めば、納得してしまう。そういう書きぶりなのだ。
 頁は、右の頁にはプロトコル一つである。
 最初のほうは、私たちに思い当たる症状が掲げられる。「立ち上がるときに声が出る」「だんだん寒さが苦手になる」などである。左の頁にそれが何故か、どうすればよいのか、書かれている。体の熱は筋肉でつくられるので、筋肉が衰えると、熱の発生が抑えられ、寒くなるのだ、という具合である。
 次には希望が並べられる。「何歳からトレーニングを始めても筋力はアップする」「筋肉を強くすると骨粗しょう症の予防になる」といった具合である。
 続いて、具体的なトレーニングメニュー。これも、人により様々なスタイルがあるだろうから、といろいろなプランが提供される。実に実践的である。そしてトレーニングは3ヶ月続けてそこでどうするか次を考えるべきだということと、その理由が詳しく述べられ、最後に食生活や生活スタイルにおいて気をつけることが説かれる。イスへの座り方ひとつで、老化の度合いが変わるというから、まことに私たちは、背筋をしゃんと伸ばさなければならない。
 考えれば、当たり前のことばかりなのである。だが、その当たり前のことができていない私たちの文明が、果たして健康的であるのかどうか、改めて問われるような気がする。
 類書の中でも、実に優れた、合理的な本ではないだろうか。とてもよいことが書いてある──ではいけないのだ。これは、実行してなんぼという世界なのである。




Takapan
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