本

『10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』

ホンとの本

『10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』
しろやぎ秋吾
KADOKAWA
\1100+
2021.6.

 コミックエッセイである。ここでコミックという言葉を、面白おかしいという意味にとってしまうと、紹介として完全に拙いことになる。
 痛い。実に痛いし、苦しくて、切ない。
 ここには、12のエピソードが集められている。これらは作者の体験というものではなく、SNSで募った折りに集まったものを、10頁ほどのマンガ形式にしたものである。頁を上下二段に分けるくらいの大きなコマで表すので、ストーリーが大きく展開するわけではないはずだ。いじめならいじめのシーンを執拗に描くことを避けたようにも見えるが、虐待シーンはけっこうきつい。また、気づけば一コマで一気に時間がずいぶん経っているということもあり、作者の表現力はなかなかのものだと思う。決してデッサンが細かいと言うこともないし、粗い仕上がりのようにしか見えない場合もあるのだが、どうしてどうして、心の深みをぐいと突いてくるものがそこに満ちている。不思議な魅力である。
 そうだ、心をぐりぐりと攻めてくる。その痛みは、昔の人間であろうと、心に疼くものは分かるし、また逆に、昔だったら周囲のこうした理解はなかっただろうと思われるふしもある。むしろいくらかでも、ひとの心の問題が表立って扱われるようになり、少しでも理解は進んでいるのではないかというふうにも見えるからだ。
 ここにあるのは「友達から無視された話」「ゲイであることを悩んでいた話」「両親が不仲だった話」「耳が聴こえなくなった話」「伯父から虐待を受けていた話」「学校ではしゃべることができなかった話」など、聞くだけでも苦しいような体験もあれば、「先生との恋愛の話」や「美術の先生との話」のように、傍から見ているせいかもしれないが、何か温かいものを感じる体験もある。「つらい時に支えてくれた友達の話」は、ストーリーからはほっこりしたものであるかのように聞こえるかもしれないが、アンネ・フランクを思い出すような、苦しさが醸し出されているように思えた。
 ネタバレ的なことは書くまいと思うので、勘弁して戴きたいが、感情移入したならば、胸が締め付けられるような体験話が、多様な形で表現されていて、タイトルから予想がつかない場合も多い。
 twitterでいま10万人ほどのフォロワーがいて、そこから体験談が集められているのではないかと思われるが、いま調べて気づいたことに、本書の半分がインターネットで公開されていた。すると、私がとやかく言うより先に、それを見てくださったほうが、本書のことがよく分かるということになる。
 言葉で、切なさを表現することの限界がここにある。そして作者は、他人の心に対する共感力が強いということで、気持ちが伝わるようにまた表現することができるということなのかもしれない。
 本書に触れて、ほんの少しでも、他人に優しくなることができたら、素晴らしいことだろう。




Takapan
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