本

『百万ポンド紙幣』

ホンとの本

『百万ポンド紙幣』
マーク・トウェイン
堀川志野舞訳
ヨシタケシンスケ絵
理論社
\1300+
2017.2.

 図書館にこれが入荷してから、はまっている。「ショートセレクション」のシリーズである。ハードカバーに、ヨシタケシンスケ氏の、ちょいととぼけたイラストがついている。それは、タイトルになっている「百万ポンド紙幣」の物語の一場面であることが、読めば分かる。
 マーク・トウェインといえば、すでに亡くなってから1世紀を超えた、アメリカの作家であるが、いまなおアメリカの心の故郷のような位置にある人ではないだろうか。トム・ソーヤーや、ハックルベリー・フィンなど、魅力的な人物像を掲げたが、私にとっては「人間とは何か?」が最初に読んだものであったと思う。
 本シリーズは、短編集である。そして読み仮名などを見ると、小学生でも読めるようなコンセプトにしてあるように思える。
 全部で七つの物語が収められているが、やはりここでは、表題の「百万ポンド紙幣」を取り上げることにしよう。この一つの話で、全体の四分の一の頁を占めているから、ちょっとした中編としてもよいかとは思うが、やはり秀逸である。
 27歳のぼくは、ひょんなことから海で遭難し、サンフランシスコからロンドンに連れて行かれることになる。飢え死に寸前の状態のとき、金持ちに拾われる。そこにいたのは、年老いた2人の兄弟。2人は、奇妙な賭けをしていた。ロンドンで路頭に迷っている孤独な外国人が、百万ポンド紙幣を手にしたら、どうなるだろうか、ということであった。この特別な紙幣は世にも貴重なものであり、また、百万ポンドというのは、今でも一億円以上の価値のあるような額である。ぼくは、それだけを手に渡されて、街に放り出される。
 腹が減っていたので、庶民的な食堂に入ったら、さあ、支払いのとき、とんでもない待遇を受ける。釣りをくれ、と言うと、とてもじゃないが釣りなど出せないわけだから、お支払いは結構です、と丁重に断られる。
 対応の面白さが、ここから続く。その描き方が、さすがである。ぼくは、一ポンドたりとも支払うことなく、なんでも調達できていくのである。
 有名になったぼくは、上流階級の晩餐会に招かれる。そして、そこでのゲームの場で、魅力的な女性手出会うことになるのだが、ここからはストーリーは伏せることにしよう。
 ぼくは、実直で正直な人間であった。かの2人の金持ちも、そうした正直な外国人に百万ポンド紙幣を、ということで賭けをしていたのだ。
 新約聖書の、ミナの譬えというのがある。実直な働きで、預かった額を増やす僕が褒められるというものだ。それとパラレルであるなどとは思わないが、もしかすると意識の中でもヒントになっていたのではないか、というような、無根拠で勝手な憶測を、私はしてみた。
 「天国だったか? 地獄だったか?」は、生と死を扱い、天使もまた登場するのだが、こうした題材が誠意の中に取り扱われるような時代というものは、もはやずいぶん昔の過去のことでしかないのだろうか。いまもなお、素朴な信仰の物語を扱えば、もしかすると、社会にそぐわぬ、奇異なものとしてしか受け取られないのかもしれない。そんな寂しい気持ちも、懐いたのであった。




Takapan
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