本

『100万回死んだねこ』

ホンとの本

『100万回死んだねこ』
福井県立図書館
講談社
\1200+
2021.10.

 2021年秋に発行されたこの本は、けっこう話題に上った。タイトルを見て、あの絵本のことだな、それがどうしたの、という気持ちにもなりえたであろう。愛と死を描いた感動的な、佐野洋子さんの絵本のことだ。だが、その本の題は『100万回生きたねこ』である。この勘違いはナーバスである。だが、本書の内容を知らせるには実によい広告塔となりえた。
 本書は、図書館からのメッセージである。実際に窓口での問い合わせの数々をストックしておいた。それは笑い話のためではない。今後の質問や相談に対するデータベースとするためである。時折、小学生のテストの珍回答をネットにアップして喜んでいる人がいるが、もしやらせでなく本当に小学生のテストであるならば、そんなことをやっていいのか、実に疑わしい。私には虐待めいて見える。
 それはともかく、本書は、そのように笑いものにするために著されたのではない。また、たんに問い合わせに対応するならば、何も出版する必要はない。本が売れれば儲かるからか。それがないとは言えない。出版する以上、利益を求めることは悪くはない。だがそれが目的だとも思えない。
 本書は、「覚え間違いタイトル集」というサブタイトルが付いている。だから、本のことを知った人も、間違い晒しだと勘違いする可能性もある。しかし実際に読んでみたら分かる。この本は、「レファレンス」キーワードとしている。図書館利用者から質問・相談を受けて、調べものに必要な資料を探す手伝いをすることである。
 15年前に、「レファレンスサービスをもっとアピールするにはどうしたらいいか」という課題が館長から出された。これについて、図書館のウェブサイトでいろいろ知らせていたが、そう見てもらえるものではない。そんな中、このタイトルの覚え違いを表に出したら、次第に知られるようになったのだという。
 面白がってもらえたら、関心も向く。確かに面白い。だが、本書を見ても、ただ面白いわ、で終わったのでは、あまりにも皮相的で、言ってみればレベルが低い。タイトルの覚え間違いそのものは、図書館の現場での現象に過ぎない。うろ覚えで、こんな本、あんな本はないかと問い合わせる。容易に想像がつく場合もあるだろう。だが、何をどう間違えたのか、本について熟知する図書館の司書とて、神業をつねに使えるわけではない。はて、それは日本の本ですか、新しい本ですか、何かが登場しますか、などと問いかけていくうちに、それはもしかすると……という道に辿り着くようになる。このようなデータは、利用者がよりうまく求める本に辿り着くかに役立つし、司書の仕事を軽減もさせてくれるだろう。というのは、このためにずいぶんと時間を要することもあるのだから。
 その苦労は、一般には知られていないことだろう。そして、このレファレンスをひとつの代表としながらも、そもそも司書とは具体的などのような仕事をしているのだろうか、その疑問に答えるかのようにして、図書館の仕事を教えてくれる、そんな本がここにできたということである。
 本書を気に入った人が、本書の中に収められている覚え違いの数々をたくさん並べている投稿を見たことがある。映画でも、ネタバレは厳禁とされている。いま上映中の映画の筋を全部ばらしてしまうと、しばしば営業妨害となるからだ。たとえそうでなくても、常識的に考えて、情報に価値があるとき、その情報を安易に漏らすということは、権利を侵し、損害を与える行為であることは、良識ある人ならば分かっているはずである。
 少なくとも私の考えでは、と断っておくが、本を紹介するのは、その本が良いものであれば、それを気に入って購入するなどして読んでくださるように、という思いをこめてのことである。そこまで内容を教えてくれたのならもう買わなくてもいいや、というふうに思わせることは厳に慎まねばならないと考えている。そのために内容も紹介しなければならないが、だからこのバランスというものはなかなか難しい。映画の予告編は、見たくなるように仕向け、魅力的な場面を見せるが、全部をばらしてしまうようなものではない。結局、なんであれ、この思わせぶりな宣伝というものが鍵であろう。
 教会や聖書のことをアピールするには、どうすればよいのか、頭を悩ましている人も多いだろうが、私は本書のスタイルはひとつ有力なヒントになりうるという気がしている。結局ああおもしれえで終わる程度の読み方しかしてくれない人もいるのだろうが、多くの読者はきっと分かってくれる。本書はこの覚え違いを通して、図書館と人々とが結びつくことを企図して、その接点とその背景についてよく知らせてくれる本であるのだということを。そしてそのような接点を、教会に限らないが、多くの団体がほしいのだということを。




Takapan
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