本

『知識ゼロからの 売れる消費者心理学』

ホンとの本

『知識ゼロからの 売れる消費者心理学』
豊田裕貴・坂本和子
幻冬舎
\1365
2011.2.

 たとえば百円均一の店では、どこにどのように商品を並べるか、非常に思案するという。商品としての差異が価格の上ではあまりないゆえに、なおさら場所や見渡し具合を考え、また客の探しやすさを考慮しつつ、かつ売れ筋をどの位置に並べるか、また購買意欲を起こすかなど、実にいろいろ考えて配置されているはずだ。
 もちろん、多くの店ではそういう工夫がなされている。食料品を扱うスーパーマーケットでも、客の動き、また視線の流れなど、一定の理論がはっきりしている以上、それに従って配置されているし、その店の実情に合わせて変化も試みられていることだろう。
 売る側としては、何も工夫は並べ方に限らない。顧客の心を動かすために、値段の末尾を8や98にすること、また割引だとか限定だとかいう文字で誘うことは、日常茶飯事である。買うほうも、それを分かっていて楽しんでいるところがあるから、どこかバナナの叩き売りのように、乗せられてやるか、とわざと買っている場合もないではない。ただ、あまり意識せずにそうさせられている、という場合も少なからずあることだろう。ちょっと迷うとき、どうするか、自分のことを考えてみたらいい。結局いつものやつに落ち着くことが多いだろうし、逆にちょっとした店員の干渉で買うのを止めることだってある。ちょっとご褒美、つまり他人であれ自分にであれ、どこかハレの気持ちで買うときには高いほうを買うくせに、日常においては1円でも安いほうに手が伸びることもある。また、高額な商品については、最安値は避ける傾向にあると言えるだろうし、どこか他人の目に触れるものについては安物買いを望まない場合が多い。種類が多すぎるよりも、いくつかに絞られたほうが選びやすい心理もうなずける。
 最初に大きな期待を抱くと、買ってがっかりすることがよくあるが、最初に余り期待していないと、普通のものでもよく思えたりすることも経験済みだろう。同じ値段の同じような商品があったとしても、百貨店ならば安物に思え、コンビニであれば贅沢に感じられるのも自然な心理だ。
 こうした、消費者心理を多角的に見せてくれるのは、実のところ買う側の私たち自身の姿である。売る側も、買う側でもあるのだから、自分の体験から様々なことが言えることを知っているはずだろう。だのに、売るとなると、妙な期待や賭けなどの心理も入るのか、自然な日常生活と違う判断を下してしまうことがある。
 こうなると、売る側の錯覚心理というものも、今後提供する価値があるかもしれない。どうして買う者でもある自分が、売る側にまわると別の発想をしてしまうのか、そのあたりのからくりを指摘すると面白いと思う。心理学者の先生方、これはビジネス書としていけるのと違いますでしょうか。
 この本は、マンガが多用してあり、読みやすい。理論ばかりで迫るよりは、シチュエーションとして紹介されるので、親しみやすい。しかしまた、心理学用語も適宜用いてあるので、背景を調べようと思えば調べることが可能だ。この本の中にその専門的な用語の内容に立ち入るのは、性質上、あるいはスペース上できなかったのだろう。それはそれでよいと思う。全般的に分かりやすい構成になっており、解説になっていたと感じる。
 可能ならば、これがいかにも販売や営業という点でだけまとめられず、また別の視座からのものを求めたいものである。非営利組織であればどうなるだろうか、などと。これは、著者へのリクエストである。




Takapan
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